NEON GENESIS EVANGELION Short Story

『冬の花火』

Written By pzkpfw3






あの最後の戦いから一年が経ち、世界に平和が戻り、そしてチルドレンはまだ

自由には飛べなかった。

生き残った二人は、あの公園に来ていた。腕を組みぴったりと寄り添っている。


「シンジィ、少し寒いね。」


薄着のまま出てきたアスカが甘えた声でささやく。


「そうだねアスカ、あれからだんだんと季節が戻ってきてるみたいだね。」


最後の戦いを経て少し逞しくなった少年が微笑みとともに恋人に囁きかえす。


「それじゃぁ、私たちの子どもは雪が見られるかもね。」


悪戯っぽい笑みとともに身を翻したアスカに、シンジははにかみながら


「・・・・・・そうなるといいね。」


と、答える。


「で?大晦日の忙しい時に、こんなとこに連れてきてなにがあるわけ。」


笑みを絶やさないまま、シンジのところに戻ってきたアスカは上目遣いの姿勢

でシンジに問う。

シンジは、その問いをはぐらかすかのように


「まぁまぁ、もう少ししたら判るからさ・・・」


と言い取り合わない。


 「下らないことだったら・・・解ってるんでしょうねぇ。」


アスカの表情が引き締まる。

シンジのくせに隠し事なんてと思っているようだ。


「うぅ。た、多分気に入ってくれると思うよ。」


先ほど迄の余裕は何処へやら、生来の気弱な面が出てきている。


「ふうん。」


ま、しょうがないわねといった感じで返事をするアスカ。その時シンジの腕時

計のアラームが鳴った。


「あ、もう少しで始まるよ。あっちの方を見て。」


公園のバルコニーから第三新東京市の一角を指すシンジ。


「え?どっち、どっち?」


良く判らないアスカ。尤も判らないふりをしているのかも知れないが。

それを見たシンジは


「あそこらへん。」


と言いながら後ろからアスカの体を抱きかかえる様にして、方向を示す。 


「あんたも結構大胆になったわね。」


少し顔を赤らめながら、それでも嬉しそうにしているアスカ。


「まぁね、アスカに大分苛められたから。」


先ほどの余裕が戻って来たのか、少しおどけた調子で言葉を返すシンジ。


「なぁんですってぇ!!」


言葉はきついが、アスカも別に怒っている様では無い。

2匹の小猫がじゃれあっているようなものである。


「ほらほら、あともう少しだからさ。」


あまり時間の無いことを思い出したシンジは半ば強制的にじゃれあいを終わらせる。


「ぶう。」


拗ねて見せるアスカの横顔を、冬の花火が彩る。


「わぁ・・・きれい・・・。」

「ほんとだね・・・。」


二人はそう言ったきり、少しの間言葉を失う。

シンジの手はその間ずっとアスカの手指に絡まってしっかりと結びあっていた。

二人とも、こんなに穏やかな気持ちで花火を見るのは初めてだった。

どのくらいそうしていたか、アスカが


「ね・・・どうしたの・・・これ。」


今、気がついたかのように、シンジに声をかけた。


「うん。ミサトさんがね、正月も帰省できない人とか、あと・・・僕たちみた
 いにここからまだ出られない人のためにって、企画したらしいんだ。」

「ふうん・・・それは分かったけどさぁ、それじゃぁどうしてこの公園に、私
 たちしか居ないのよ。」


怪訝な顔をしてシンジに向き直るアスカ。尤も二人の体は密着したままであるが。


「そ、それは・・・その・・・。」


言いにくそうに、顔を背けるシンジ。


「ほらほら、きりきり白状しちゃいなさいよ。」

シンジの頬をつんつんと突つくアスカ。

その可愛らしい仕種にクラクラするシンジ。


「うう、じ、実は加持さんにたのんで、この公園を立ち入り禁止にしてもらっ
 たんだ。監視を逆手にとってね。」

「それにしては、諜報部の黒服が見えないじゃない。」

「だからぁ、加持さんに頼んだって言ったじゃない。」 

「へぇー。バカシンジにしては気が利くじゃない。」


 心底感心したような表情で言う。


「それって、誉められてるのか、貶されてるのか、どっち。」


情けない声でシンジは問う。


「何言ってんの。バカには最大限の誉め言葉じゃないの。」

「とほほ。」

「ま、あんたみたいのでも、少しづつ良くなってるわけだから、これに慢心
 せず精進することね。」


言うや否や、アスカはシンジの唇を自らの唇で塞いだ。


「こういうご褒美もあることだしさ。」


その瞬間、一際大きな花火が夜空を満たす。


「わぁ・・・。」

「まるで光のシャワーみたいだね。」


光の残滓が夜空に消えていき、光りのショーは終わった。

「・・・終わっちゃった。
 最中が派手なだけ、終わった後ってなんだかさびしいわね。」

「そっかな。僕はアスカがそばにいるから、全然平気だけど。」


言いながらアスカの細い体を強く抱きしめる。


「全くぅ。情緒もへったくれもないんだから。
 ま、わたしもシンジが居ればいんだけどさ。」


アスカもそれに答えてシンジを抱きかえしながら、その胸のなかでつぶやく。


「ん?なんかいった?」

「なんでもなーい。さ、さ、肌寒くなってきたことだしとっとと帰りましょ。」


シンジから離れると、腰をかがめながら下から覗き込むような姿勢で声をかける。


「そうだね。」


 アスカの方をみながらシンジは返事をする。


「あ、そうだ!シンジ、明けましておめでとう。今年もよろしく!!」

「こちらこそ宜しく、アスカ。」


その返事を聞きながら、何か思い付いたようにニヤリとするアスカ。


「じゃ,今年最初のお風呂は一緒に入ろう!」


周りに人がいないのをいいことに大きな声で宣言するアスカ。


「ええ!いいよぉ、そんなの恥ずかしいよ。」

「なによ、私の言うことがきけないっていうの。」

「あ、いや・・・その・・・。」

「じゃぁ、決まりね。
 大体、私みたいな頭脳明晰、容姿端麗の女の子と一緒のお風呂に入れるなん
 て、この世界であんただけなんだからね、感謝しなさい!!」


ちょっと偉そうに胸を張って、でも顔を紅く染めて宣言するアスカにシンジが

逆らえるはずもなく


「はい・・・。」


と妙に神妙に、でもこちらも顔を染めて返事をする。


「んじゃ家に向かってしゅっぱぁぁつ。」

「はーい。」

「ふんふん♪・・・・・・・・」


アスカは鼻歌など歌って上機嫌で、シンジの腕を取って新居に向かう。

あの戦いの後、二人はミサトの部屋をでて、二人で暮らしている。


「ねぇ、アスカ。」



自分の腕に上機嫌でぶら下がっているアスカにむかって呼びかけるシンジ。



「なぁに。」





「世界で一番好きだよ。」

「私も世界で一番シンジがすきだよ。」












                     おわり










投稿SSのページに戻る